眠れぬ夜の過ごし方 ~触れる温もり~
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虎松//関係:恋人//傾向:甘々 【視点:ヒロイン】※ボル版ワンドロ用作品(お題:眠れぬ夜の過ごし方)




虎松君は向うから歩いて来ては、私を見るなり驚く様に双眸を瞬かせる。
何故こんな所に居るのか、そう言いたげな視線を向けた。

日七…?」

それもその筈、夜の帳の暗さだけが辺りを包む最中、縁側に腰を下ろしていた私は寝苦しさの所為か中々寝付けないでいた。

「……何かあった?」

虎松君は眉を潜ませて心配気な眼差しと共に、優しげな声で聞いてくる。まるで夜の静けさに漂うべくひそりとする音量で。


「少し涼みに…。ごめんなさい出歩いてしまって…夜風にあたれば眠れるかなと思って」

「今夜も蒸し暑いからな…――――少し待っててくれ」


言うなり虎松君は踵を返すと姿勢正しく歩きながら向こうへ消えてしまった。
如何したんだろうと首を傾げても、待っててと言われてしまえば大人しく此処に居よう。
夜風が心地良くて汗で湿った肌を冷やしていく。夜空を見上げると散りばめられた星々が個々に光を放っていた。
こんな時代だと言うのに静まり返った城内は夜の虫達が草葉の影から主張する様に鳴いている。
それは驚く程平穏に聞こえ、それでいて長閑に情景を見せた。


(遅いな…虎松君)


一向に帰って来ない虎松君を待ち続けると手持無沙汰な所為もあってか、足先を交互に揺らして刻を待つ。


「すまない。…遅くなった」

「虎松君、それ…」


項垂れてた頭が弾かれた様に声の主へと向けると、虎松君は先程と同じ表情でお盆を片手に何かを上に乗せていた。
見るとそれは一つの湯呑だ。湯気は見えないのだから冷えているんだろうかと思いながら虎松君は私の横にお盆を置くとそれを挟む様にして腰を下ろしてしまった。


「水じゃ味気無いと思って、淹れてみたけど……急いで来たからまだ冷めて無いかも知れない」

「有難う、虎松君。実は喉乾いてたんだよね」


頂きます、と丁寧に頭を下げるとお盆の上に両手を伸ばし湯呑を持つ。矢張り湯呑に指先で触れても熱さは感じない。
それでは改めて口許に寄せるとコクコク、と口に含めば喉に流し込んだ。


「美味しい。虎松君わざわざ冷まして持って来てくれたんだね。……もしかして、フーって息吹いて冷ましてくれた?」


なんて、と目許を細めて嗤ってしまうのは自分の考えに対してだ。こんなのは冗談。
勿論虎松君だって理解してくれてるのは当然な戯れだと思っていた。

なのに……――――。

何故か、虎松君は顔を私とは反対側に叛けてしまえば片手で目許を隠していた。

一体此の反応は何だろう、と湯呑をお盆に置いてから顔を覗き込む様に私は上半身を揺らす。
夜の所為か肌の色までは解りにくいが、それはもう大分照れてる様に眸に映った。


「もしかして図星…」

「ちがっ…!」


ハッと息を呑んだ虎松君は狼狽えた顔で此方を振り向いた。すると私と目と目が合った瞬間、気まずそうに眉根を寄せると視線を外す。
今度は何処か拗ねた様にも見えるのだから、私はころり、と表情を変える虎松君に対して小さく噴出した。可笑しいのが半分、可愛いのが半分だ。


「最初、だけ…それは僅かであって、外の夜風で冷ましてきた…」

「そっか…息吹きかけて冷ましてくれてたんだ」

「それは、一度だけだから」


虎松君は真剣な眼差しで私をしっかりと射抜けば、何処までもその素直さを貫き通してしまう。
貫き通す意志の強さを持った、何も色が混ざらない黒い瞳を持つ人。その色で何処までも清く澄んだ心を持っている。


「あ…」

「そっか、一度だけ」


しまった、と顔に書いてある虎松君は後の祭りな為なのか、将又反論するのを諦めてしまったのか、目許を伏せて嘆息した。


「もう、いい…」


羞恥を流し込みたいのか、虎松君はお盆の上にあった湯呑を片手で掴んでしまうと一口二口中身を飲んでしまう。
そんな姿が愛しいな、と綻ぶ口許は如何やら、とことん虎松君を困らせてしまいたいのだろうか。


「虎松君…好きだよ」

「ごほっ!」


咽てしまったのか、片方の瞼だけ閉じた虎松君は拳を作って慌ててドンドン、胸元を叩いている。
そうして見ていると水滴で濡れた口許を、ぐいっと拭い、その手の甲で滑らせる様に二度目に見る目許を隠してしまった。


「……知って、る」


虎松君の静かな声音は、夜に溶けてしまうくらいに小さい。
恥ずかしいから見るな、と態度で表現してる虎松君に綻んだ唇が元に戻らず、剰え伸ばした手で手首を掴んでしまった。

「見せて…?」

見せて。言葉の通りに私は虎松君の事をもっと、もっと知りたい。
虎松君のこと、沢山知りたい。どんな風に思って、何を見て、何を言いたいのか。


――――……好きだから。


虎松君は剥そうとする私の手に対して、観念した様に力を入れずに居てくれた。
隠されていたものを覗き込んでしまえば曲げていた小指が、ぴくりと震える。何も隠せなくなった虎松君は顔を斜めに落しては恥ずかしそうに唇を引き結んでいた。

私達は出逢い、何時しか惹かれ合い恋をした。
けれど虎松君は私を大事に想ってくれてるのか踏み込んだ触れ合いは今まで無かった。
それでも私は平気だった。ただ、手を伸ばした先に居てくれれば良かったからだ。

こうして今も青白い月に染まった見目麗しい虎松君の横顔を見るだけで息を呑む程、見惚れている。
見惚れてしまう程に、端整な顔立ちの虎松君は本当に綺麗だった。瑞々しい瞳は感情の角度で色んな表情に変化した。
精悍な雰囲気に何処か幼さを残して微笑んだりするのだから虎松君を見ているだけで愛しさが込み上げてくる。

私は朗らかに微笑しながら、手首を掴んでた手を解くと虎松君の頭に触れた。
さらり、と滑らかな質感に芯が少しだけ含んだ程よい硬さの髪質には撫でるだけで心地良さを感じさせる。
手遊びする様な撫でる手付きで、虎松君の頭を撫でていると顔を叛けていたのを漸く私に向く様に位置を変えてきた。

その時視野にぼう、と淡く黄色に光る何かが庭先を飛んでるのに気付く。


「…もしかして、蛍?」

「ああ…この時期になると、何匹だけ飛んでるのを見るな」


虎松君から手を離すと、二人で蛍を観察する形で前を向く。数は少ないけれど、草木に止まる蛍が幻想的な夜に変えてくれた。
綺麗だね、と言いながら私は二人の間を邪魔していたお盆を手に持つと反対側に置いてみる。そして、よいしょ、と業とらしい声を出して虎松君のもっと隣へ座り直してみた。

「…………」

腕と腕が触れ合うと、見なくても虎松君の体が強張るのが解った。
蛍を見ながらも、横目で盗み見ていると真っ直ぐに背筋を伸ばして虎松君は視線を前に向けていた。
けれど、何かを意識してるのは何となく解る。
やがて緩んだ様に虎松君のちらり、と転がした瞳が向けられる気配を感じると途端に私は意地悪く蛍にだけ視線を注いだ。

はあ、と小さく息を吐くのが耳に入る。然し如何したの、何て聞かず私は只管黙った儘だった。


――――……好きだから。困らせたくなる。


私は、そっと縁側の縁に置かれていた虎松君の手に自分の手を重ねた。
前を向くふりをしても視野では戸惑う様に此方を見たのが解った。指の先で手の筋をなぞると、骨ばった手付きは矢張り男の人の手なのだと思う。

虎松君は何も言わずに、ゆっくり手を滑らす様に裏返すと私の手を包む形にして握った。


「…………」

「…………」


相変わらずに綺麗な蛍が飛んでいたけれど、それが不図黒く翳ったのは虎松君が近付いた所為だ。
段々と近く距離につれ今までどんな虎松君よりも近く見える顔、腕と腕はとうに押し合う様に触れ合いながら、瞼を閉じた次の瞬間には唇に柔らかなものが重なる。

ざあ、と吹く風が髪を擽る様に揺らす最中唇が離れれば二人は徐に瞼を開けた。


「虎松君…」

「ごめん…」


謝る虎松君は、額同士を寄せながらも恥ずかしそうに目許を伏せる。けれど一呼吸置いて瞼を持ち上げればずっと真剣な表情で見詰めてくる。


「俺…初めてで…上手く出来なかった、から」


然し、虎松君は葛藤する気持ちが僅かに見え隠れた様に恥ずかしげに視線を斜めにしてしまう。
そんなこと無かった。寧ろ唇が触れ合った瞬間に弾け飛んだ想い。胸から溢れ零れたのは、涙に似ていて何処までも切ない気持ちになった。
夢にまで見た愛しい温もりは、初めてそんな気持ちを教えてくれる。だから、私は顔を左右に振って否定した。

すると虎松君は眉根を寄せると僅かに俯く事で自然と上目見る形になり、呟きを落す。


「もう一度…してもいい?」


返事の代わりに、繋いだ手を強く握り返すとそれを肯定と捉えてくれたのか再び影が惹かれ合いながらくっ付く。
私と虎松君が同時に瞼を閉じる。すると、柔らかな唇をゆっくりと押しつけてから縁取られた形に嵌る様に深く唇同士が重なった。

温もりは一瞬でも胸に刻まれるのは一生…――――離れる気配と共に瞼をそっと開ければ、先に虎松君は伏せてた目許を上げたのか何も揺るが無い真っ直ぐな視線を向けていた。


「好きだ…」

日七のこと俺、好きだから……――――絶対に大事にする。……ずっと」


握った手の指同士を絡めると、ぎゅっと強く握る虎松君からは一切の迷いの無い声と目の強さを感じる。
嬉し気に頷き、繋いでる腕を強く引かれてしまうと重心を失い虎松君の胸に凭れた私を体で覆う形で優しく抱き締めた。

そんな私達を蛍が祝福してくれる様に、星が輝く夜空に何時までもふわりと飛んでいる。


END

Presented by HINANA
Thanks for reading to the end.



久々にこんなに甘いの書いた気がする…。虎松君の一生懸命さが伝わる為にヒロインの性格は公式様とは変えております。
恋乱のサブキャラが好きになる日々。虎松君の魅力を少しでも表現出来てたら幸いです。
    *最後まで読んで頂き有難うございます。宜しければ拍手=愛を頂ければ活力になります。 ia10.gifアイ
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