刃に宿る獣は鮮血を啜る
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徳川家康//関係:無し//傾向:シリアス 【視点:三人称】 ※家康 対 才蔵の一騎打ちです。




※流血描写が多々あります。此処から先は全てにおいて自己責任でお読み下さい。


戦火が立ち昇る煙の遙か彼方に、息吹く桜の模様が見えていた。
夜の空気はやけに生暖かく、息を吸えば忽ち燻ぶる煙と血の匂いがする――――。
今まで前方に立ち塞がる何人もの喉元目掛け、刀は牙となり家康は獣の如く噛み千切ってきた。
隙の無い機敏な動きは空気と化した、かまいたちのように辺りを切り刻んでいく。

「ひいいっ!」

「ひ、退くな!一斉に斬りかかれ!」

怒涛な声を、まるで糸をスパッと斬るように一太刀すれば地面を生い茂っていた草花に多くの血飛沫が飛び散る。
すると先陣切って一人が飛びだせば後に続けとばかりに複数の刃先を一気に向けられたのだが、家康は顔色一つ変えずに居た。


「いいよ、冥途の土産に教えてあげる」


刀を握る指先を今一度固く握り締めたかと思えば、次の瞬間にはヒュン、と鋭い音が鳴る。
目に止まらぬ早さの太刀捌きと共に敵の懐に入れば的確に急所を突いた。刃が肉にめり込む刹那、断末魔の悲鳴と一緒に鮮血も踊る。

それをすり抜けた家康は殲滅した敵に背中を向けた状態で、ゆらりと刃先を地面に下した――――。
ポタポタ、と地に赤の色が落ちると漸く肩越しだけで振り向く最中吐き捨てるように言葉を投げる。


「――――…雑魚は黙ってろ…ってな」


声無き屍に向って頭上から見下ろす眼の奥は冷酷に、まるで水面の揺らぎも無くただ静けさだけが漂う深い泉のようだった。
底の深さを覗き込もうとすれば背筋がぞくりとしそうな程、歪で不気味さすら感じてしまう。
深紅の返り血を何度も浴びれば自らに染めながら、鼻腔に触れるその匂いに奥深くに眠る黒い何かが目覚めるようだった。


「残党一派の分際でいい気になるなよ…俺が一匹残らず斬り殺してやる」


低く呟く声音からは何処か激しい感情が立ち昇る。何の迷いも無い剣先は血肉を求めてるかのように揺らぎ、刺し違えても目の前に立ち塞がる黒い者は排除せねばと双眸をきつく細めた。

歩を進めながら至る所に転がる屍を見ても感情は微塵も動かず、ただ目前に広がる状況を家康は冷静に判断する。
表情は依然無の儘だが、その物腰は何処か凛と涼しげにも見えた。内から溢れるものは己の器で全て呑みこみ周りには決して悟られる事の無いような振る舞いを見せる。けれど形勢有利な状況でも常に目の色を光らせる事で、外に炙り出された者は瞬く間に逃げ道を失うのである。


逃がすつもりは毛頭無い…――――。


その時、ざわりと風の流れが変わる気配に混じり殺気立つものを感じた家康は足を止め辺りを見渡すべく瞳を細めると刀を握り直す。

背後でガサ、と葉が擦れる音と同時に飛び出た影に家康は弾かれた様に振り返った。


刹那から双方音速の様な動きで、ガキンッと耳奥に劈く音を辺りに大きく響せる。
そのまま、ギチギチと刀同士を擦れ合わせながら至近距離で互いの顔を睨み合った。


「…流石、徳川家康だね――――」


フ、と酷薄に歪めた唇は吊り上がり目前の才蔵は薄く笑った。その様子を煮え滾る瞳を向ける家康。


「矢張り塵屑が残っていたか。……此れは掃除しがいがある」


重圧な空気とは裏腹に口調はやけに淡々と軽く、何処と無く楽し気にも見えるのだから才蔵という人物が如何に戦慣れしている事が解る。云うものの、才蔵の力を真正面から難なく受け止める事の出来る家康の力量も計り知れない。


「…野放しにして居たら、仲間の命が幾つあっても足りないからね。……悪いけど足止めさせて貰うよ」

「塵は塵らしく潔く散ればいいものを…」


互いの内に秘められる闘争心は刀を幾度交える一瞬に置いて二人は知った。
血を啜る内に秘める獣、決して見せない己の心。対峙する二つの形は違えど欠片程の似た何かは深く重なるものがある。
二人は本能の儘に相手の命を追い、ただ目指すのは互いの喉元を噛み切る事だけだった。

一入の北叟笑みを挟んで家康の一振りと才蔵の一振りは同時。
互いの刀が鋭く光り、キンッと一際大きな音が鳴るとチリチリと空気が焦げる様な殺気が二人に漂う。


「君さ…さっさと死んでくれないかな」


突如にっこりと飾りのように微笑む家康に向かって才蔵は直ぐ様あからさまな溜息を吐いた。


「さあ…世の中には聞けない願いもあるって事、理解したらどう?」


家康が笑みを消したと同時に踏み込んだ才蔵は片腕で力の限り家康を撥ね退けると、その出来た隙間から間を入れずもう片方の腕で下から刃を振り上げた。
ヒュッと風だけを斬る感覚なのは、上半身を反らした後はザザと土埃を足下に作り体勢を低くした事で距離を置いた家康がそこに居たからだ。


「理解した所で何の意味も無いだろ。お前の心臓を貫く。その事実だけが、あればいいんだから…――――――」


家康の言葉から暫しの静寂に変わると何処からか舞い散る桜が割って入る。依然二人の殺気は立ち昇る儘に家康は徐に刀を前に構え直した。


「それこそ何の意味があるの?…事実何て幾らでも虚像に紛れてしまうってのに」


微塵も揺らがないその鋭い才蔵の瞳は冷静沈着に紅い色を滲ませ相手を射抜く。
その視線の先、家康の頬からは突然ツ、と紅い雫が頬を滑らせた。先程の才蔵の刃先で翳めた切り傷から血はゆっくりと滴れ落ちる。
すると家康は痛みを感じないとばかりに殊更ニヤ、と音のしそうな微笑を漂わた。
冷酷さを含む笑みを口許に滲ませながら、人差し指で軽く拭った自らの血を薄く開いた隙間から舌先を出してぺろ、と掬う。


「なら全てを消し去り、無に還すよ。お前の存在を今この地に……」


「無かった事にすればいい――――!」


叫んだ家康の言葉がプツリと途切れると同時に二人は土を蹴り、一振りを作ると頓てギンと刃を打けた。
然して息吐く暇も無く、怒涛の様な太刀筋を互いに放っては受け止める。
一歩も引かず月の灯だけが辺りを照らす中、その淡い色に一瞬だけ見える火花があった。
何度かの鍔迫り合いで刀から浮き彫りにされるのはただ命の奪い合う音。

ビリビリとした風圧を作り舞う桜の花弁さえ無残に刻むと、二人が駆り立てている空気で身を刻まれるような錯覚さえ起こした。

戦慄を通り越して求め合うのは、狩らなければ、狩られる。殺すか殺されるかだけ――――。


絶妙な刀の流れは隙など二人の間に存在するのかと思える程、双方無駄な動きは一切無い。
ほんの一瞬の緩みが命取りになるのは一目瞭然で、ザアと駆け抜ける夜風を裂く勢いで双方の刃は再び重る。
まるで自らの奥底から引き摺り出すように、剥き出しにされたのは殺気から変わるそれ以上の狂気。


「お前は…――――俺が殺してやる」

「なら全てを断ち斬ってみなよ…――――出来るものならね」


才蔵の眼がスウ、と細められれば挑発的に見せる薄い微笑は瞬く間に残像のように消える。
再び激しく散らす火花の行方、どちらの喉元が噛み千切られるのかは空に漂う蒼い月だけが見ていた――――。


END

Presented by HINANA
Thanks for reading to the end.



がは!(゚Д゚)吐血。二人の刃でワタクシが倒れた…。何の戦の展開だ、如何したって考える脳が足りない。…ならば、(かっこいい)一騎打ちの雰囲気だけでも…。恋乱が戦国だからか、甘い恋愛も良いんだけどこういう武将達の戦いに惹かれる。陣とか戦略とか。
    *最後まで読んで頂き有難うございます。宜しければ拍手=愛を頂ければ活力になります。 ia10.gifアイ
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